9月20日に令和6年度広島大学秋季学位記授与式(卒業式)が広島大学サタケメモリアルホールで行われ,博士課程後期の宮本 聡史さん(社会人ドクター,MEグループ)に博士(工学)の学位が授与されました.
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/85291
宮本さんは広島大学病院 診療支援部臨床工学部門において部門長としての勤務を続けながら研究を進め,学術雑誌論文2編,国際会議論文1編を発表し,博士学位論文をまとめました.今後も広島大学病院において研究活動を継続される予定です.今後のご活躍をお祈りします.
■博士学位論文
A Study on a Model for Estimating the Number of Microbubbles Delivered from a Venous Reservoir in Cardiopulmonary Bypass
(人工心肺における静脈リザーバーから送出されるマイクロバブル数推定モデルに関する研究)
人工心肺は生体から導出した血液を体外循環し,人工肺で酸素加および二酸化炭素除去を行うことで,患者の心肺機能を代替するものである.患者自身の心臓は停止した状態で管理され心臓内の手術が行われるが,手術操作を妨げないために術野へ出血した血液を回収する必要がある.そのため,吸引ポンプは血液だけでなく空気も一緒に吸引してしまい,静脈リザーバーに送られる.静脈リザーバー内の血液と空気はフィルタを介して貯血され,ある程度,除泡されるもののすべてがなくなることはなく,マイクロバブル(MB)として存在し血液とともに送出されてしまう.
送出されたMBの影響についてはこれまで数多くの論文で報告されており,心臓手術において深刻な合併症を引き起こす要因の一つとされている.心臓外科術後の術後認知機能障害および神経病学的機能障害は60%を超える発生率であり,脳卒中も1~3%の患者に起こっている.MBの発生要因はいくつか報告されているが,MBの送出メカニズムをモデル化することによってMB送出を予測可能とし,MB送出自体を未然に防ぐことは重要である.
MB送出に関係する因子として,これまでに術野血液吸引流量,静脈血リザーバー貯血量,血液粘度,送血流量が報告されている.先行研究では,それぞれの因子とMB数の関係性が評価されその重要性が指摘されているにもかかわらず,全因子を総合的に考慮した関係性についてはこれまで解析されてこなかった.
このような背景を踏まえ,本研究では人工心肺システム作動条件の因子からMB推定モデルを構築することを目的とした.以下に本論文の概要を示す.
第1章では,本研究の背景と目的について述べた後,従来研究と本研究の位置付けを明確にした.
第2章では,各因子を変更してマイクロバブル送出数の関係性をモデル化し,モデルパラメータを導出した.牛血液を用いて,人工心肺システムの各作動条件による実験をおこなった結果,マイクロバブルとその他因子は有意な相関を認めたが,マイクロバブルの送出には各因子が複雑に関係しているためニューラルネットにより非線形の関係式を導出した.
第3章では,まず血液粘度によるMB送出数の変化について詳細に検討した.第2章では血液温度のみを変化させることで血液粘度を調節したが,血液粘度を決定する因子には血液温度に加えてヘマトクリット(Hct)値がある.そこで実験では,Hct値の変化で血液粘度を1.5, 2.0, 2.5, 3.0mPasに調節し,血液温度で調整した同じ血液粘度時のマイクロバブル数と比較した.その結果,2.0, 2.5, 3.0mPasの条件でマイクロバブル送出数が有意(p<0.001)に減少した.そこで,術野血液吸引流量,静脈血リザーバ貯血量,血液温度,Hct 値,送血流量を入力とするマイクロバブル送出モデルをニューラルネットにより機械学習的に構築した.
第4章では,提案したマイクロバブル送出モデルを30例の臨床症例に適用して,手技による部分を除いたマイクロバブル数の実測値と推定モデルから算出した推定値を比較した.その結果,推定値と実測値との間には有意な相関を認めた(決定係数R2=0.8576, p<0.001).また,Bland-Altman分析により系統誤差がないことが示された.
第5章では,総括および今後の研究への発展を述べている.
■学術雑誌論文
Neural network-based modeling of the number of microbubbles generated with four circulation factors in cardiopulmonary bypass
Satoshi Miyamoto, Zu Soh, Shigeyuki Okahara, Akira Furui, Taiichi Takasaki, Keijiro Katayama, Shinya Takahashi, and Toshio Tsuji
Scientific Reports, volume 11, Article number: 549, doi.org/10.1038/s41598-020-80810-3, Published online: 12 January 2021. (SCI, IF=3.998)
The number of microbubbles generated during cardiopulmonary bypass can be estimated using machine learning from suction flow rate, venous reservoir level, perfusion flow rate, hematocrit level, and blood temperature
Satoshi Miyamoto, Zu Soh, Shigeyuki Okahara, Akira Furui, Taiichi Takasaki, Keijiro Katayama, Shinya Takahashi, and Toshio Tsuji
IEEE Open Journal of Engineering in Medicine and Biology, Volume: 5, pp. 66-74, DOI: 10.1109/OJEMB.2024.3350922, Date of Publication: 08 January 2024. (ESCI, IF=5.8)
■国際会議論文
Neural Network-based Estimation of Microbubbles Generated in Cardiopulmonary Bypass Circuit: A Clinical Application Study
Satoshi Miyamoto, Zu Soh, Shigeyuki Okahara, Akira Furui, Keijiro Katayama, Taiichi Takasaki, Shinya Takahashi, and Toshio Tsuji
Proceedings of 44th Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society (EMBC’22), DOI: 10.1109/EMBC48229.2022.9871662, Glasgow, United Kingdom, 11-15 July 2022.